卒業ロス・強い喪失感
◎心にぽっかり穴が空く
◎気持ちの整理がつかない
◎悲しみが抑えられない
3月に入ると、卒業シーズンに突入します。学校の卒業。慣れ親しんだ友人とのお別れ。新しい生活に期待を抱きつつも、これまでの生活に名残惜しさや喪失感を感じる。逆に、後に残された側の人も卒業ロスを膨らませる。
親しい人との別れで、心(気持ち)にぽっかり穴が空く。漢方では悲しんだり、泣いたりすることは、肺に作用すると考えられ、泣いてスッキリすることは漢方的には魄(≒本能的感情)の亢ぶりを清めて、魂・魄のバランスを整えることに通じます。人の感情では、理性的な面を魂が、本能的な面を魄がコントロールしますが、悲しくて泣くというのは、魂の支配を越えて、魄が盛んになる様を表します。悲しいときにも我慢して泣かない人は、本能よりも理性が勝るタイプです。尤も、魄の昂ぶりは心情や状況によって様々な形がありますから、泣くのが良いとも、泣くのは駄目とも言えません。
そして漢方では、心の喪失感は魄が失調した状態を反映すると考えます。深い悲しみや強い喪失感は、心身を支える気を消失させ、気力を減退させます。頭(理性)ではわかっていても、心(感情)の整理がつかない状況。心が遠のき、ここにあらずといった状況。意欲が失せて、何も手につかない状況。いずれも魄の失調を反映した状態です。
卒業前に服んで起きたい漢方薬とは即ち、①魄を整える漢方薬②魄を立て直す(回復する)漢方薬を意味します。①には気鬱を穏やかに晴らす香蘇散や苓桂朮甘湯、心を穏やかにする桂枝加竜骨牡蛎湯や半夏厚朴湯などに、②には心身の疲労を回復する帰脾湯や天王補心丹、気力・意欲を促す補中益気湯や香砂六君子湯、あるいは半夏白朮天麻湯などに、一服の価値があります。
なお、これらの漢方薬は、睡眠や食事を通じた充足感を促す働きがあります。そういった充足感は生命活動に直結しており、最も根源的で尊い存在です。加えて人の心は、達成感(魂胆を高める行為)を通じても満たされます。生命としての充足感と、魂胆を通じての達成感。両者のバランスがとても重要です。失恋して仕事に逃げる(逃げられる)人と、仕事が手につかなくなる人。両者の違いはまさに、充足感・達成感のバランスの違いによるものでしょう。